昔の日本の庭には柿や梅、栗、ビワなどが植えられていて、季節ごとに収穫して家族で美味しく食べたり、ご近所にお裾分けをしたりするような豊かな暮らしがありました。しかし最近、特に都市部では果樹のある庭を見かけることが少なくなりました。この記事を読んでくださっている方の中には、「マンションで果樹は育たないのでは?」「どのように育てて良いか分からない」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、バルコニーでもプランターを使って簡単に育てられるおすすめの果樹や品種、育て方のポイントについてご紹介します。
プランターで果樹を育てることには多くのメリットがあります。収穫して食べられるというのはもちろんのこと、育てる楽しさや、子どもの自然教育にも繋がります。ここでは、それぞれのメリットについて詳しくご紹介します。
スーパーマーケットで売られている果物は、外国産で防腐剤が使われているケースが多くあります。また国産であったとしても果樹は病気になりやすいことや、虫がつきやすいなどの理由から農薬が多く使われることもしばしば。その点、家庭で育てると自分で管理でき、安心安全な果物を食べることができます。日本の食料自給率が低い昨今では、自宅で安心安全な果物を収穫できるのはとても大きなメリットであると言えるでしょう。
無農薬で安心な果物が食べられる「イチジク」
ガーデンセラピーという言葉を聞いたことはありますか?ガーデンセラピーとは、すでにガーデニングを楽しんでいる方も、そうでない方も、植物を育てるという行為自体が癒しに繋がるということです。日々の成長や、花が咲く様子を観察できるのはとても楽しいものです。それに加えて果樹は、花が咲き終わった後、結実していく様子を観察しながら育てていく楽しさと収穫の喜びがあります。
一度ハマると「なぜもっと早く始めなかったのか」と思う方も多いようです。食物を育てて収穫する行為に対する喜びは、人間の本能やDNAに刻まれていることなのかもしれませんね。
都市での暮らしで、積極的に補いたいことの一つに自然との関わりが挙げられます。6歳までに自然と触れ合うことが多かった子どもは共感力が高いという研究結果があるほど、特に幼少期の子どもにとって自然に触れることや観察することはとても大切です。いくら高学歴で良い仕事につけたとしても共感力が低いとコミュニケーションに苦労し、人間関係がうまくいかなくなる可能性があります。子どもと一緒に植物を育てることで共感力、さらには観察力や洞察力も身に付けましょう。夏休みにサマーキャンプなどに行くのも良いですが、毎日の暮らしの中で継続的に植物と触れ合い観察できるという点で、自宅で果樹を育てるという事は大きなメリットです。動物のように動かない植物は少し地味な存在ですが、果樹であれば子どもが好きな果物を収穫できるため興味を持ってもらいやすいでしょう。
果樹は、庭に植えて育てるものと思われる方も多いですが、プランターでもしっかり育つものがあります。むしろ庭だと大きくなり過ぎてしまうのに対し、プランターでは程良い大きさで育てられるメリットがあります。ここでは、プランターで育てる場合の育て方と気を付けるべきポイントをご紹介します。
プランターは育てる果樹に適した素材とサイズを決めたうえで、好きな色やデザインを決めます。
素材でまずおすすめしたいのは「不織布プランター」。通気性と排水性が良く、柔らかい素材なので、使わない時は丸めて収納でき、廃棄する時も燃えるゴミで出すことができます。手軽に始めたいという方におすすめです。
2つめは「テラコッタなどの素焼きプランター」です。素焼きプランターは樹脂製に比べて通気性が良いので、植物にとって快適な土中環境を作りやすく、見た目の雰囲気も良いです。
3つめは「ファイバー強化セメント」です。お庭らしく寄せ植えするにはある程度大きさのある長方形プランターが良いのですが、素焼きプランターなどの通常のセラミック製品だと重くなりすぎてしまいます。持ち運びしづらいだけでなく、床の耐荷重の問題も起こり得るので、セメントでありながら特殊繊維で補強しているため軽量で丈夫な「ファイバー強化セメント」がおすすめです。
サイズは、最初は苗に合わせて選びます。長方形なら幅50~60㎝、奥行30~50㎝ぐらいのものがおすすめです。数年経つと根がまわるので、1周り大きいサイズに植え替えます。容量の大きいプランターなら植え替えは必要ないですが、ご自身で植えるのは大変なので業者に相談するとよいでしょう。
横幅100㎝の大型果樹プランターの例
土づくりで大切なのは、排水性と保水性の両方をバランスよく備えること。バルコニーで育てる場合はなるべく床に負担をかけないようにしたいので、軽量土壌にすることも大切です。培養土に半分赤玉土をブレンドしても良いですし、ブレンドするのが大変という方は、「培養土」と呼ばれる基本用土をブレンドした果樹用の土を購入すると良いでしょう。その際、あまりに安すぎる土は未完熟な腐葉土が混ざっていたり、汚染された土が入っていたりする可能性があります。未完熟な堆肥は、害虫の卵や雑草の種、病原菌が混入している可能性が高いのです。完熟した堆肥は、60度以上に自然に発熱しその熱でこれらの有害物質を死滅させます。土を買う時は、完熟した堆肥が使われているか、肥料成分について細かく書かれているかなど、なるべく詳細が書かれたものを購入するようにしましょう。
また、鉢底石は不織布にくるんでから敷き詰めると再利用しやすいのでおすすめです。すのこ付きのプランターの場合は、鉢底石は要りません。
基本的には落葉樹ではなく、落葉しない常緑樹がおすすめです。植え付けの最適な時期は、落葉樹は葉を落とす休眠期の11~3月、常緑樹は3~5月ごろです。根を痛めないようにポットから外して、しっかりと植えつけます。種から育てると結実するまでに何年もかかりますので、苗を買って植えるのがおすすめです。また、2~3年に一度、プランターの植え替えをしましょう。これは根が回って栄養が吸収しにくくなるのを防ぐためです。一回り大きいプランターに古い根を整理して植え替えます。
水やりの基本は、表面の土が乾いたらたっぷりとあげること。プランターの下穴から出るぐらいの量をあげないと、根の先端まで水が届かず吸い上げることができません。水をあげる回数は乾燥具合を見て調整します。乾いていないのに水をあげ過ぎると、根腐れの原因になってしまいます。最初は注意深く表土を観察するようにしましょう。また、春・秋・冬は朝に水をあげますが、夏は朝だと水が温かくなって根を痛めてしまう恐れがあるので夕方にあげるようにします。
マンションなどで屋外水栓がない場合は、ハンディタイプの小型噴霧器があると水やりがしやすいです。
プランター栽培で欠かせないのは肥料です。広い畑などでは落葉や昆虫、微生物などの働きにより、土中に栄養素が多く含まれていますが、プランター栽培では土中の栄養が不足するため、定期的に補ってあげる必要があります。基本的に年3回、果樹用の肥料をあげます。窒素成分が多い肥料だと、枝や葉に栄養が回り、果実に栄養が足りなくなってしまうので気をつけましょう。
常緑樹の剪定は3~4月に行います。剪定する時は枝の真ん中では切らず、必ず付け根で切るようにしましょう。剪定ばさみは、切り口から菌などが入って病気になるのを防ぐために常に清潔にしておきます。また、太い枝を切る際は雨水や雑菌の侵入を防ぐために癒合材を塗るようにしましょう。これも切り口から病気になるのを防ぐためです。
せっかくの家庭菜園なので、なるべく農薬を使わずに育てたいところ。そのためには早め早めの虫対策が必要です。
水やりの際に葉や葉裏にもシャワーをかけることでアブラムシなどの虫がつきにくくなります。もし虫や卵を見つけたらなるべく早く、手袋をして取るなどして駆除し、被害を最小限に抑えましょう。
また、葉が重なり合っていると蒸れて、病気や虫が湧く原因にもなってしまうため、風通しが良くなるように剪定することも大切です。人体には無害と言われるニームオイルや木酢液を希釈したスプレーなどを使うのもおすすめです。
果樹のある暮らしを楽しむためにも気を付けて頂きたいポイントが2つあります。
基本的には落葉しない常緑樹(※一部落葉樹)で鳥に狙われず、かつ育てやすく見た目も良いおすすめの果樹をご紹介します。
以前まで東京では育ちにくかったレモン。現在は温暖化の影響もあり関東以南でも育つようになりました。白く芳香のある花が咲き、実が甘くないので鳥に狙われません。品種がいくつかあるので特性を確認して好みのものを選びましょう。アゲハ蝶がよくやってきて卵を産むので、なるべく卵のうちに駆除します。そのままにするとすごい勢いで葉を食べつくしてしまいます。レモンは約20枚の葉に対して1つの果実がつくと言われますので、いかに葉を多く残すかは大事なポイントです。アゲハ蝶を育てたい方は、子どもの自然教育として虫かごに移して育てるのも良いでしょう。
おすすめの品種は育てやすい「リスボン」、大きくて収穫量も多い注目品種「璃の香」です。
フェイジョアは中南米原産、フトモモ科の常緑樹。果実はスーパーではあまり見かけませんが、道の駅やインターネットで購入することができます。パイナップルとバナナを合わせたようなトロピカルな味で11月頃に収穫できます。花は赤い雄しべと白い花びらが特徴的で、葉は新芽がシルバーリーフなので観賞用としてもおすすめです。風に少し弱いので、支柱はしっかり立てましょう。花びらもエディブルフラワーとして食べることができます。おすすめの品種は実が大きくて自家受粉する「アポロ」です。
ビワは日本原産、バラ科の常緑樹。収穫は6月ですが、花は12~1月の冬に白い花を咲かせます。ビワは美味しいだけではなく、栄養価が高く葉は漢方に使われるほど有益な植物。お茶や、ハーブバス(入浴剤)として利用することもできます。他の果樹に比べて耐寒性がやや弱く、冬場はマイナス2度を切る地域では栽培が難しくなるので、そのような場合は室内に取り込みます。昔は「ビワを植えると病人が出る」と言われていましたが、これは庭植えをすると大木になり日陰になってしまうことに起因するようです。鉢植えであれば全く気にする必要はないでしょう。
おすすめの品種は「クイーン長崎」。通常のビワよりも大きくて甘いのが特徴、スーパーでは高級品種として売られています。
ビワ科の落葉樹。落葉樹ですが葉が大きいので風で飛びづらく、近所迷惑になる心配がありません。また、葉のカタチが美しく観賞価値が高いです。イチジクは昔と違い、最近では品種改良のおかげもあって、とても食べやすい高級フルーツになりました。美味しいだけでなく、胃腸の調子を整えるなど古来より不老長寿の果物として重宝されてきました。収穫時期は7月頃。「無花果」と漢字で書くとおり、花が実の中にあるので花が無いように見えます。そのため自家受粉となり1本で確実に結実します。こちらは鳥に狙われやすいので、実が成り始めたらネット掛けをするようにしましょう。
収穫量を増やしたい場合は「一文字仕立て」という、二本の枝を水平に曲げて180度に開くように紐などで固定する方法で仕立てると良いでしょう。イチジクは200種以上あるので好みにもよりますが、実は小さいが育てやすい「ホワイトイスキア」、黒イチジクの「ビオレ・ソリエス」などがおすすめです。
ミカン科の常緑樹。最近ではスーパーでも見かけるようになったキンカン。そのまま食べるのも良し、サラダやチーズにもよく合います。ビタミン・カルシウムが豊富で、皮にも血流改善が期待できる成分が多く含まれており、風邪をひいた時に食べると良いといわれます。7~8月に花が咲き、翌年の2~5月に収穫できます。普通の柑橘類と違い、春に伸長した枝と前年枝に着果するため、極端な剪定をすると花は咲くけど実がならないこともあるので注意が必要です。剪定は収穫後の4~5月に行いましょう。
おすすめの品種は甘くて生で食べられる「ネイハキンカン」です。
今回は果樹を育てるメリットや育て方を中心にお伝えしました。みなさんも果樹を生活に取り入れ、ワンランク上の豊かな暮らしを楽しみましょう。せっかく果樹のある暮らしを楽しむのならば、おうちもリフレッシュして気持ちよく過ごしてみませんか。
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一級建築士、ランドスケープデザイナー。大学卒業後、大手組織設計事務所、マンションディベロッパー、ランドスケープデザイン事務所を経て、2011年「SUNIHA UNIHA(サニハユニハ)」設立。ウェルビーイング、リジェネラティブをテーマに庭・インテリアの設計、執筆、建築コンサルティングを行う他、植物を通して感性を磨く自然教育の活動を行う。著書に『小さな花飾りの本』(誠文堂新光社)